令和7年(2025年)10月14日、本学客員教授の伊藤信悟先生(株式会社国際経済研究所主席研究員)による特別講義「台湾とは何か? ~知っておきたい台湾の多様な顔~」を実施しました。

今回の講義は、熊本との接点が増えつつある台湾はどのようなところなのか、また、台湾が簡単には総括できない複雑なところであることとその背景について思いを馳せ、台湾との交流、さらには異文化交流に必要な心構えについて考えることなどを中心に進みました。

歴史的背景について説明いただく中で、「エスニシティ」という概念についても紹介いただきました。エスニシティとは「言語、価値観、宗教、歴史などを共有する集団の所属意識であり、国民意識(ナショナリティ)とは異なる概念とのこと」だそうです。また、質疑応答の中で、「台湾は、元々いた原住民(オーストロネシア人)と、その後移住した漢人(福佬人、客家人、外省人)、そして新移民(新住民)から成る複雑なエスニシティを持つ多民族社会であるが、このエスニシティの概念は歴史を分析する上で重要だが、現代ではエスニシティが政治などに与える影響は弱くなってきている。」と補足されました。
また、後半では、世界経済における台湾の位置について解説いただきました。その中で、「台湾の経済発展水準を1人当たりGDP(市場レート)で日本、韓国と比較すると、「韓国>台湾>日本」であり、台湾の人々は日本を上回ったという自信を持つようになってきているという背景がある。その立役者が半導体産業の発展である。」、「台湾では水不足電力不足土地不足の問題が5年ほど前から深刻化しており、世界に生産拠点を分散したいという想いや他国の企業・政府の要請もあるが、総生産能力の9割、そして最先端の生産能力(人材)が依然台湾に集中しており、中期的に見て台湾が半導体産業の中核地であるという価値を持つ可能性が高いだろう。」と語られました。
最後に、日台の共通課題と協力の可能性について、「台湾は、非常に複雑な歴史的な背景を持ち、現在は地政学的な渦の中に巻き込まれているが、少子高齢化・人口減少への対応やグローバルサプライチェーンの再編と海外市場の開拓における協力といった日本との共通課題を多く抱えている。また、生活水準や社会環境が似てきているだけに、台湾の立場や相互の関係性も理解しながら、日台で膝を交えて話し合っていくチャンスが増えてきている。」 と述べられ、「台湾の人々とだけでなく、他の国・地域の人々とも、相手の歴史や民族構成、日本との関係を踏まえて、決めつけることなく、謙虚にお互い助け合い高めていけるところを見つけていけると良いと思うし、みなさんも台湾や他の国・地域の人々とそのように付き合っていっていただければと思う。」と締めくくられました。
※今回の特別講義は、「もやいすとシニア(グローバル)育成」の授業の一環として行ないました。