2027年度 国内初の半導体学部開設
生活のあらゆる場所で利用され、関連企業の熊本県進出により関心が高まっている半導体。この分野の人材育成・確保のため、新学部が創設されます。半導体分野で実績のある研究者や企業人が県立大学に集結します。
新設される半導体学部では、半導体に関する専門知識にとどまらず、ビジネス、環境、法制度などの幅広い分野を横断的に学習。個人の興味関心に合わせ、深めたい専門分野を選択することができる体制を整えています。地域に根差した半導体人材の育成は、メディアや企業など、多方面から注目を集めています。
半導体学部 初オープンキャンパス
大きな期待と注目を集める新学部の全貌と魅力に迫る




7月20日、半導体学部開設に合わせ、オープンキャンパスが開催されました。会場では、学部概要やカリキュラムの説明のほか、学習内容の体験も。展示・実演ブースでは、半導体学部に就任予定の教員やゲスト講師が、半導体について解説。当日は、多くの来場者が真剣な表情で説明や解説を受け、新学部への期待と関心の高さをうかがわせる一日となりました。
学科説明会
全国初の学部創設の想いと未来
会場には300人を超える高校生や保護者が詰めかけ、立ち見が出るほどの盛況ぶり。参加者はメモを取りながら熱心に耳を傾けていました。学部説明では、半導体がいかに広い範囲で利用されているか、これからの時代における重要性を解説。天野英晴学部長は「世界で半導体の役割が重要になる中で、半導体で何ができるかを、ぜひこの学部へ入学し、広い視点から考えてほしい」と、未来の学生たちへ熱く語りかけました。

トークセッション


県内企業3社が語る学部への期待と、学生へのアドバイス
「半導体学部への期待」をテーマに、県内の半導体関連企業3社と天野学部長によるトークセッションを開催。企業からは「1つの企業でも多様な仕事があり、学部で学んだことを存分に生かせるはず」と学部への期待が語られました。「女性も活躍できる環境があり、女性の視点も重要視している」といった働き方に関する話題も。学部長も「地元企業とは積極的に連携し、地元で活躍できる人材を育てたい」と意欲を示しました。質問コーナーでは、登壇企業が「海外企業との取引が多いので英語は勉強すべき」や「学生時代のうちに、何でも興味を持って調べることが大切」とアドバイス。働く人のリアルな声を聞ける、貴重な機会となりました。
特別講義
知識を得る時代から問いを立てる時代へ
黒田忠広理事長による特別講義のテーマは「AIと半導体」。AIに「知能や意識はあるか」と実際に問いかけた際のやり取りを紹介しながら、AIが質問へ回答し、次の質問につなげる仕組みについて説明。AIの思考が発達したことで、知識がすぐに手に入る時代において「活躍できるのは、自ら問いを立てられる人ではないか」と持論を展開。幅広い知識を学べる環境が整っている新学部について、「興味のある人はぜひチャレンジしてほしい」と集まった学生たちへ呼びかけました。

模擬授業

新学部の学びを先取り
天野英晴学部長による講義で、テーマは「半導体ってなんだろう」。半導体は生活のあらゆる場面に使われ、日常生活に不可欠であるという解説から始まりました。
授業の目標は現代のデジタル回路の主流であるCMOS回路の仕組みについて理解すること。回路の種類や動作の仕組みについて、誰でも分かりやすい丁寧な解説が行われました。参加者は、回路図を見てどのような信号が送られるかを考える模擬問題に挑戦。今得たばかりの知識を使い、頭を悩ませながらも楽しく問題を解いていました。
展示・実演ブース
AI・応用情報
動きで見守るAIエージェント「NOMI」体験
カメラを使わず座標から人の動きを読み取り、生画像不使用で見守りを行うAIエージェント「NOMI」。「見えない家族の一員」としてプライバシーに配慮しつつ、転倒など緊急事態の検出のほか、座位や睡眠などの長期的な行動分析により健康リスクの予測もできます。
AI・応用情報
空間を立体的に捉える「3Dスキャン・ガイド作成」体験
3Dスキャン技術による撮影方法や、3Dガイド生成の実験結果を紹介。欠陥箇所の特定や最適な移動順序の把握を立体的に行い、どのように改善すべきかを分析・検証する実験が解説されました。
AI・応用情報
画像処理研究を解説
画像処理技術に関する研究室の紹介。柵や影・窓反射を除去する技術や、AI生成画像を分類する技術など、多様な研究内容を実際の実験データとともに解説。大学生活の一部である研究室での活動に触れることができました。
マイクロエレクトロニクス/スマートマテリアル
半導体集積回路を顕微鏡で観察
半導体集積回路について、加工技術から動作原理、設計・製造、応用までを基板の実物や画像、解説図を用いて分かりやすく紹介。様々な種類の基盤を自由に触りながら顕微鏡で観察できる体験ブースも設置されました。
高校生・保護者の言葉
熊本工業高等学校 1年 男子
普段から電子回路に触れる機会があり、半導体にも興味があったので足を運んでみました。他の学校では見ないカリキュラムは、半導体に関する広い範囲の学びを網羅しており、さらに興味が湧きました。
熊本工業高等学校 1年 男子
気温の上昇に関心があり学校でも学んでいますが、半導体が環境問題とも関わっていることを初めて知りました。元々興味のある分野でしたが、半導体が多様な分野と結びついていると知り、今後どのように発展していくのかさらに深く学びたいと思いました。
熊本高校 3年 男子
半導体学部が新設されることを知り、志望校として含めています。学部説明で詳しいカリキュラムを聞き、知らない知識が次から次に出てきて、学べる内容に近未来を感じました。
熊本北高等学校 3年 男子
熊本で半導体学部を新設する理由や、半導体が関わる仕事について知ることができ、進路の選択肢が広がったと思います。海外企業との取引が多い業界だと講演でお話があったので、英語の勉強を頑張りたいです。
真和高等学校 1年 女子
以前から学園祭などに足を運んでいて親しみのある大学だったので、今回も見に来ました。今まで半導体というものがどういうものなのか、どのように活用されているのか分からなかったけれど、先生の講演が面白く、半導体について少し理解を深めることができました。
真和高等学校 1年 女子 父親
熊本全体が半導体を中心に変化していることを実感しました。県内に関連企業が増える中、地元で半導体を学べる場所ができるのは、子どもの進路の選択幅が広がりますし、業界の担い手を増やすことにもつながるので本当に良いことだと思います。
第二高等学校 1年 女子 母親
新学部がどんな場所なのか気になったので参加しました。今まで半導体は男子が関わるものというイメージがありましたが、興味を持つ女子も多いことを実感しました。今日のことを今後の進路選択にぜひ生かしてほしいです。
半導体学部開設決定記念座談会
半導体を学ぶ、その先へ。世界を動かす人材を熊本から
2027年4月、熊本県立大学に半導体学部が開設されます。新学部で教育・研究に携わる天野英晴先生、丹羽正昭先生、奥原颯先生に、学部の特徴や熊本で学ぶ魅力、研究の面白さを聞きました。

登壇者プロフィール
天野 英晴 教授(学部長)
慶応義塾大学、東京大学を経て、熊本県立大学へ。専門は情報工学
丹羽 正昭 教授(学科長)
松下電器産業(株)を経て、筑波大学へ。その後、東北大学、東京大学から熊本県立大学へ。専門は応用物理学、電気電子工学
奥原 颯 准教授
ボローニャ大学、シンガポール国立大学などを経て、熊本県立大学へ。専門は電気電子工学
半導体を「作る」から「どう生かすか」まで
新しい半導体学部には、どのような特徴がありますか。
天野教授 我々の学部では、半導体をどう使うかというアプリケーションから、回路、コンピューターアーキテクチャ、材料、製造に加え、ビジネスや法制度、知的財産、環境問題などを幅広く学びます。何を作り、どう社会に役立てるかまで考えられる人を育てたいと思っています。
丹羽教授 これまでの半導体教育は、どちらかといえばデバイスを作る「半導体工学」が中心でした。技術を生かすアプリケーションやビジネスを十分に育てる人材を育てるために、社会や経済の視点も含めた「半導体学」をつくっていく。それが、この学部の大きな意味だと思っています。
熊本だから、世界につながる学びができる
今、熊本で半導体を学ぶことには、どんな可能性がありますか。
丹羽教授 熊本は、日本の中でも半導体のインフラが特に整った地域です。地図に円を描けば、東京より台北が近く、上海やソウルにも近い。世界的な半導体製造拠点であるアジアとつながる場所として、大きな可能性があります。
奥原准教授 TSMCの進出に加え、県全体で半導体産業を後押ししていることも大きいですね。チップを作るには設備も費用も必要です。企業などと連携し、ものづくりに触れられる環境が身近にあることは、学生にとって大きな強みになると思います。
天野教授 熊本を、台湾の新竹やアメリカのシリコンバレーのような場所に育てたいと思っています。学生たちがここで学び、企業と連携して新しいシステムを作る。アイデアからスタートアップが生まれ、まちも発展していく。まだこれからですが、熊本には、その土台が十分にあると思っています。
始まりは「なぜ?」という好奇心
先生方が現在の研究分野に進んだきっかけを教えてください。
丹羽教授 高校生のときに初めて「半導体」という言葉を聞き、導体でも絶縁体でもないとはどういうことだろう、と不思議に思ったのが始まりです。江崎玲於奈博士がトンネルダイオード※1の研究でノーベル物理学賞を受賞したことも強烈でした。また、走査型トンネル顕微鏡※2を使い、初めてシリコンの原子像を見たときの感動が忘れられません。きれいに並ぶ原子を見た経験は、今も研究の原動力です。
天野教授 僕は高校時代、アマチュア無線に夢中でしたが、交信より電波の増幅器をどう作るかに興味がありました。大学時代、ICを買ってきて基板に配線し、自分でコンピューターを作りましたが、複雑な回路が一発で動いたとき「自分はデジタルの世界に向いている」と感じました。動いた瞬間の面白さが、今につながっています。
目指す相手は、世界にいる
最後に、高校生へメッセージをお願いします。
奥原准教授 少し目線を高く持ってほしいですね。半導体の世界に入れば、海外のトップスクールで学ぶ学生たちも競争相手になります。教員と学生が力を合わせ、世界に食い込んでいきたい。ここで学ぶなら、「相手は世界」という気持ちを持ってほしいです。
丹羽教授 海外の研究機関では、さまざまな国の人が一つのチームで働くことが当たり前でした。世界には優秀な人がたくさんいますが、海外だからと恐れる必要はありません。熊本から世界の半導体産業へ打って出る、そんな大志を持ってほしいと思います。
天野教授 半導体学はとても幅が広い学問です。材料を学んでみて違うと思ったら、回路やAI、プログラミングを選ぶこともできる。入学時点で専門を決めてしまう必要はありません。まず基本と設計する力を身につけ、学びながら自分が本当にやりたいことを見つけてください。
注釈
※1 トンネルダイオード:電子が通常は越えられない障壁を通り抜ける「トンネル効果」利用した半導体素子
※2 走査型トンネル顕微鏡:細い針を物質の表面に近づけ、原子レベルの凹凸を調べる顕微鏡
座談会の詳しい様子は動画で
先生方が熊本県立大学への就任を決めた理由、研究での失敗と乗り越え方、AIを使ったチップ設計、半導体から広がる進路など、記事では紹介しきれなかった話を動画でお届けします。