学長紹介・メッセージ

熊本県立大学
学長 半藤 英明(はんどう ひであき)
【プロフィール】博士(文学)。専門は日本語学。本学文学部教授。
本学大学院文学研究科長、副学長、学術情報メディアセンター長を経て、平成28年4月に学長に就任。
※ 研究業績等詳細はこちら(研究者情報ホームページ)へ


平成31年(2019年)4月1日公表 

学長 半藤 英明 

~ 思想なき時代に生きる ~

 現代の日本は、思想なき時代にあります。世の中の事件や事故、不祥事は、概ねモラルの劣化が原因です。感覚的な平和感と経済的な満足感が日本の人々の心を無為に開放してしまったのでしょうか。求道的な精神は重過ぎるとして軽んぜられ、美意識の確立も意味を持たない多様化した現代です。日常的な宗教心が強くない日本人は、明治維新の近代化がもたらした個人主義、自由主義の成熟を謳歌する現代にあって、万人の規範とすべき価値観、大切にすべき公徳心を見失っているように見えます。人の絆が救いであると理解しているし、信じてはいても、世の中には自分本位を象徴する事態が多発しており、世界的に見ても自分とは異質の他者を許せずに非難し、否定し、攻撃する事例が目に付きます。人類にとって最も大切な、万人の幸福のための追求に向けて粘り強く生きる精神性が薄れているように感じます。短兵急な感情に支配される刹那的な生き方は、決して希望には繋がりません。

 夏目漱石は「文芸上の真」を旨として小説を書き続け、個人主義の末路が秩序の迷走と人心の荒廃であることを示唆しています。意義ある個人主義が大義のない利己主義へと変化すれば、人の世に暗雲がたちこめることになります。平成時代の恩恵であるSNSはバーチャルなコミュニティで人びとの関係を多様化しましたが、ネットを駆け巡る言いたい放題や口撃、犯罪を誘発するような書き込みなどは漱石の暗示を反映したものでしょう。平和な共同体を維持するのには不断の努力が必要であり、しかも、平和な共同体は脆く崩れやすいのです。盲目的なノスタルジーで前近代を美化するつもりはありませんが、漱石の予言どおりに人倫がゆらぐことだけはあってはなりません。

 求道的な精神や信仰心を持つべきだと言いたいのではありません。テクノロジーほどに人は進化しないのです。Society5.0の高速化したイノベーションの現代だからこそ、物欲や享楽のみに生きる虚栄と冷静に向き合い、人は如何に生きるべきかを心穏やかに考える心のゆとりがほしいと思うのです。人生の根本と向き合う問いには人類の理想と希望が込められています。回答に無限の可能性があっても諦めず、難しい問いにも挑んでみる肯定的な意欲が大切です。いまの社会に人心の迷走があるならば、私たちは人として幸せに生きるための思想を作り上げるべく、思考と心の遍歴を重ねなくてはなりません。それこそは、宮沢賢治が「よく見聞きし分かり そして忘れず」「そういうものに 私はなりたい」と詩にした美しい向上心でもありましょう。



 

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